【紙魚の昔がたり16】(弘文荘反町茂雄と創業者八木敏夫の対談)
「(八木) それと同時に、松坂屋時代の、子規よりももっと大きな思い出は、久原文庫のことです。現在の大東急文庫の基礎になっている大蒐集ですが、当時すでに久原家の都合で、所有権は親戚の藤田家に移っていて、現物は京都大学に寄託してありました。この頃、二十二年かと思いますが、藤田さんの方でお金が入り用で、売りたいという話がありました。その時分の金で、確か五〇〇万でした。五〇〇万という金は、とても大きな金で、どこでも出来なかった。
(反町) あのことは、私も到底忘れられない。藤田さんは、五島慶太さんに買わないかって勧めたんです。久原と藤田は、古い親戚。久原は、ご承知のように大実業家で、後には政治家になって、政友会の総裁になりました。藤田は財閥の藤田の家です。藤田家と五島家も姻戚でした。[…]